彫り師(タトゥーアーティスト)になるのに、国の資格や免許は要りません。2020年に最高裁が、医師でない彫り師のタトゥーの施術は医行為に当たらないと判断し、医師免許も要らないことがはっきりしました。技術はスタジオの見習い(弟子入り)やタトゥースクールで身につけるのが主な道で、衛生管理は厚生労働省の補助金による研究班がまとめたガイドライン(原案)が目安になります。
この記事の要点
- 彫り師の資格・免許は無い。2020年の最高裁の決定で、医師免許も要らないことがはっきりした
- 主な道は、スタジオの見習い(弟子入り)とタトゥースクール。独学は衛生管理を身につけにくい
- 見習いの募集には、年齢の上限(27〜30歳くらいまで)や、自分で描いた絵の提出を条件にするスタジオがある
- 衛生の目安は厚労省の補助金による研究班がまとめたガイドライン(原案)。針は使い捨て、器具は洗浄・消毒・滅菌する
- 埼玉県・北海道・沖縄県の条例は、18歳未満に入れ墨を施すことを禁じている。働く地域の条例を確かめる
- 全国の彫師の作品を見る
いま活動している彫り師がどんな作品を彫っているかは、Tattoo Japan の彫師検索で地域やスタイルごとに見られます。収入の仕組みは彫り師の年収の記事にまとめています。
彫り師になるのに資格・免許は必要?
医師免許は要らない(2020年の最高裁の決定)
彫り師に医師免許は要りません。2020年9月16日、最高裁は、医師でない彫り師によるタトゥーの施術は、医師法の「医業」にあたる医行為ではないと判断しました。(出典:裁判所「平成30(あ)1790 医師法違反被告事件」)
それまでの行政の解釈では、タトゥーの施術は医行為にあたり、医師でない人が業として行えば医師法違反とされていました。(出典:厚生労働科学研究「タトゥー施術等の安全管理体制の構築に向けた研究」総括研究報告書(PDF))
この裁判は、大阪府吹田市のタトゥーショップで施術した彫り師が、医師法違反に問われたものです。1審は罰金15万円としましたが、2審の大阪高裁は無罪とし、最高裁は検察官の上告を棄却しました。(出典:最高裁 令和2年9月16日 第二小法廷決定(全文))
決定は、タトゥーの施術を「医学とは異質の美術等に関する知識及び技能を要する行為」だとし、医師免許を取る過程でこうした知識や技能を身につけることは予定されていない、とも述べています。(出典:最高裁 令和2年9月16日 第二小法廷決定(全文))
国家資格も、彫り師のための法律も無い
医師免許のほかにも、彫り師になるための国家資格はありません。厚生労働省の補助金で行われた研究の報告書(2023年公開)は、タトゥーや彫り師について「資格法や規制法は存在しない」と書いています。(出典:同研究 総括研究報告書(PDF)・厚生労働科学研究成果データベース)
タトゥースクールの修了証なども、法律で求められる資格ではありません。資格が要らない代わりに、技術と衛生の知識は自分で身につける必要があります。
資格が無い=何をしてもよい、ではありません
最高裁は、タトゥーの施術に伴う保健衛生上の危険は、医師に独占させる以外の方法で防ぐほかないとも述べています。衛生管理の目安は、後の「彫り師に欠かせない衛生管理」で紹介します。
彫り師になる3つの方法(弟子入り・スクール・独学)
技術を身につける道は、大きく分けて3つです。それぞれの特徴を表にまとめました。
| 道 | 学び方 | お金 | 衛生管理 |
|---|---|---|---|
| 弟子入り(見習い) | スタジオで働きながら | 雇われるなら給与が出る | 現場で教わる |
| タトゥースクール | 講座で教わる | 受講料を払う | 講座の内容しだい |
| 独学 | 絵・道具を自分で練習 | 道具代がかかる | 身につけにくい |
スタジオの見習い(弟子入り)
見習いは、スタジオに入って先輩の彫り師のもとで働きながら、技術を覚える方法です。募集を出しているスタジオの条件には、次のような例があります。
| スタジオ | 見習いの年齢 | 主な条件 |
|---|---|---|
| Sol Design Nagoya | 30歳まで | 詳細は応募後に案内 |
| STROKER TATTOO | 20〜27歳くらい | 経験不問・学生不可 |
| Tattoo Studio SEEK | 20〜30歳 | 研修制度あり |
名古屋の Sol Design Nagoya Tattoo Studio は、彫師アシスタント(見習い)の詳しい条件を応募後に伝えるとしています。横浜の STROKER TATTOO は経験を問わない一方、学生・実家暮らし・大卒の人は応募できないとしています。東京に店舗を持つ Tattoo Studio SEEK は、研修制度があり練習生も募集していると書いています。(出典:Sol Design Nagoya Tattoo Studio「求人」・STROKER TATTOO「彫師見習い募集」(2026年10月)・Tattoo Studio SEEK「求人情報」)
見習いには、教わったあともそのスタジオで働くことを前提にした募集があります。STROKER TATTOO は「給与をもらって下積みすることとスクールは違います。」と書き、将来そのスタジオの彫師として長く働く人を募集しています。(出典:STROKER TATTOO「彫師見習い応募の心得」(2023年1月))
見習いでも、スタジオに雇われて働く場合は最低賃金が適用されます。厚生労働省は、都道府県ごとの最低賃金は、パートタイマーやアルバイトなどの雇用形態や呼び方にかかわらず、すべての労働者に適用されると説明しています。(出典:厚生労働省「最低賃金の適用される労働者の範囲」)応募の前に、雇われて働くのか、給料はいくらかを確かめましょう。
応募では、自分で描いた絵を求められることがあります。Sol Design Nagoya は公式 LINE で顔写真付きの履歴書と作品写真・デザイン画を数点、STROKER TATTOO は面接に紙と色鉛筆などの画材で描いた絵(デジタルの作品だけは不可)を求めています。
上の3軒の募集は、どれもスタジオの公式サイトに載っていました。働きたい地域のスタジオをタトゥースタジオ検索で探し、公式サイトの求人ページを見てみてください。
タトゥースクール
タトゥースクールは、受講料を払って彫り方を教わる方法です。期間・内容・費用はスクールごとに違います。STROKER TATTOO のように、見習いとは別に、スクールとして教えることもできるとしているスタジオもあります。(出典:STROKER TATTOO「彫師見習い応募の心得」)
申し込む前に、次の点を確かめておくと比べやすくなります。
- 受講料の総額と、道具代などの追加の費用
- 衛生管理(針・器具の扱い、廃棄物の処理)をどこまで教えるか
- 実技の練習を、だれの指導で、何を使って行うか
- 修了したあとの進路について、何を約束しているか
修了しても国の資格が得られるわけではない点は、前の見出しのとおりです。スクールの選び方は、次の記事でも紹介しています。
独学
法律上は、独学で彫り師になることもできます。ただし、独学で難しいのは衛生管理です。
後で紹介する厚労省の補助金による研究班のガイドライン(原案)は、施術室・洗浄室を分けること、手洗い用と器材の洗浄用の2か所の水道、使い捨ての針を入れる専用の容器、感染性廃棄物を処理業者に頼んで記録を5年残すことなどを挙げています。(出典:同研究 研究報告書(PDF))自宅で友人に彫るような環境では、こうした条件をそろえるのは簡単ではありません。
独学で進められるのは、絵とデザインの練習や、練習用の人工皮膚で線を引く練習です。人の肌に彫る前に、衛生管理を教われる場を見つけましょう。
彫り師に必要なスキルと向いている人
絵とデザインの力
彫り師の仕事の土台は、絵を描く力です。STROKER TATTOO は見習いの応募について、絵の描き込みを重視し、即席のデッサンや雑な絵は受け付けないとしています。そのうえで「本気で彫師を目指すなら、今から絵を描き始めたほうが良いです。」と書いています。(出典:STROKER TATTOO「彫師見習い応募の心得」)
和彫り、ブラック&グレー、ファインラインなど、タトゥーにはさまざまなスタイルがあります。どのスタイルを得意にしたいかを考えながら描くと、練習の方向が決まります。スタイルの違いはタトゥーの種類の記事にまとめています。
接客とコミュニケーション
タトゥーは客の体に一生残るため、要望を聞き取ってデザインに落とし込む力が欠かせません。STROKER TATTOO は募集要項に「彫師は接客業となるためコミュニケーションが苦手な方には務まりません」と書いています。(出典:STROKER TATTOO「彫師見習い募集」)
募集要項から見える「向いている人」
スタジオの募集要項には、どんな人を求めているかが書かれています。
- 絵を描くこと・デザインすることに真剣に取り組める(STROKER TATTOO)
- 人と接するのが好きで、スタッフと協調して働ける(STROKER TATTOO)
- 向上心があり、アドバイスを素直に受け入れられる(Sol Design Nagoya)
彫り師に欠かせない衛生管理(滅菌・使い捨ての針)
最高裁の決定で、彫り師の施術を安全面から縛る法律は無くなりました。そこで厚生労働省の補助金による研究班(2022年度)が、感染症の専門医の知見をもとに、一般社団法人日本タトゥーイスト協会の協力も得て「タトゥースタジオにおける衛生管理に関するガイドライン」の原案をまとめました。協会は2019年に、同じ名前のガイドラインを作り、彫り師に守るよう呼びかけています。(出典:厚生労働科学研究成果データベース「タトゥー施術等の安全管理体制の構築に向けた研究」・総括研究報告書(PDF))
原案の主なポイントは次のとおりです。
- 針は使い捨てのものを使う。使った針は穴のあかない専用の容器に捨て、再使用(再滅菌)はしない
- インクキャップ・紙コップ・グリップ・チューブも、できるかぎり使い捨てにする
- マシンは使い捨てのカバーで覆い、施術後は洗浄・消毒・滅菌する(オートクレーブなら121℃で20分以上)
- 施術では使い捨てのグローブとマスクを使い、手指を消毒する
- 感染性廃棄物は処理業者に頼み、依頼の記録を5年残す
- スタジオごとに衛生責任者を決め、従業者の衛生教育に努める
- 血液から感染する病気(B型肝炎・C型肝炎・HIV・梅毒)に備え、針を誤って刺したときの対応を決めておく。職員はB型肝炎ワクチンの接種を検討する
(出典:同研究 研究報告書(PDF)「タトゥースタジオにおける衛生管理に関するガイドライン(原案)」)
報告書は、このガイドラインには今のところ法的な根拠が無く、守られるかどうかはスタジオや彫り師の自主的な取り組みに任されるとしています。だれにも強制されないからこそ、見習いやスクールのうちに身につけておく必要があります。
彫り師になれる年齢と、未成年への施術
調べた範囲では、彫り師になれる年齢を決めた法律は見つかりませんでした。年齢の条件は、上の表のように、見習いを募集するスタジオがそれぞれ決めています。
一方、彫る相手の年齢には決まりがあります。たとえば埼玉県・北海道・沖縄県の青少年の条例は、18歳未満の青少年に入れ墨を施すことを禁じています(埼玉県と沖縄県は「正当な理由がある場合を除き」)。(出典:埼玉県青少年健全育成条例 第19条の2(PDF)・北海道青少年健全育成条例 第39条(PDF)・沖縄県青少年保護育成条例 第18条の3(PDF))
北海道の条例は、相手の年齢を知らなかったことを理由に処罰を免れることはできない(知らないことに過失が無い場合を除く)としています。条例の中身は都道府県ごとに違うので、働く地域の条例を確かめ、施術の前に客の年齢を確認しましょう。
独立して自分のスタジオを持つには
経験を積んだあとの働き方には、スタジオに所属する、業務委託で入る、独立するといった道があります。たとえば Tattoo Studio SEEK は、経験者の彫り師を業務委託契約・完全歩合制で募集しています。(出典:Tattoo Studio SEEK「求人情報」)所属と独立で収入がどう変わるかは、彫り師の年収の記事で試算しています。
独立にかかる費用
自分のスタジオを持つと、家賃・光熱費、マシンなどの機材、針・インクなどの使い捨ての消耗品、滅菌の機器、感染性廃棄物の処理、広告などの費用を自分で払います。上のガイドライン(原案)の設備や器具をそろえる費用も、開業前に見積もっておきましょう。
税金・年金の手続き
個人で事業を始めたら、税務署に「個人事業の開廃業等届出書」(開業届)を出します。提出期限は、事業を始めた年分の確定申告の期限までです。(出典:国税庁「No.2090 新たに事業を始めたときの届出など」)
所得は「売上 − 必要経費」で計算し、確定申告で所得税を納めます。(出典:国税庁「No.1350 事業所得の課税のしくみ」)厚生年金に入っていない20歳以上60歳未満の人は、国民年金の保険料も自分で納めます。(出典:日本年金機構「保険料を払う」)
売上が大きくなると消費税も関わります。個人事業者は、前々年の課税売上高が1,000万円以下なら原則として納税が免除されますが、インボイス(適格請求書発行事業者)の登録をしていると免除されません。(出典:国税庁「No.6501 納税義務の免除」)
客の記録と集客
独立すると、予約の受け付け、客の記録、施術の同意書の管理も自分で行います。Tattoo Japan は、彫師向けの顧客管理アプリ「Tattoo Japan Studio」を運営しています。顧客のカルテ、予約・スケジュール、施術の記録、売上の分析、同意書をまとめて管理できます。
スタジオを開いたら、Tattoo Japan にスタジオを無料で掲載できます。オーナーや彫り師が自分で、作風・紹介コメント・予約方法・写真まで載せられます。
彫り師になるためのよくある質問
彫り師になるには資格や免許が必要ですか?
要りません。2020年の最高裁の決定で、医師でない彫り師のタトゥーの施術は医行為に当たらないとされ、医師免許が要らないことがはっきりしました。彫り師のための国家資格や、彫り師を規制する法律もありません。
刺青師(和彫りの彫り師)にも資格は要りませんか?
要りません。刺青(入れ墨)とタトゥーは、どちらも皮膚に針で色素を入れて図柄を描くことを指し、呼び方が違うだけです(タトゥーと刺青の違い)。和彫りを学びたいなら、和彫りのデザインを手がけるスタジオの見習いの募集を探してみてください。
何歳から、何歳まで彫り師を目指せますか?
調べた範囲では、彫り師になれる年齢を決めた法律は見つかりませんでした。ただし見習いの募集では、Sol Design Nagoya は30歳まで、STROKER TATTOO は20〜27歳くらいまで、Tattoo Studio SEEK は20〜30歳と、年齢の条件を付けるスタジオがあります。30代以降で見習いの枠が見つからない場合は、スクールで学ぶ方法もあります。
見習い期間中に給料は出ますか?
スタジオによります。給与を払って見習いを育てるスタジオもあり、スタジオに雇われて働く場合は最低賃金が適用されます。応募の前に、雇われて働くのか、給料はいくらかを確かめましょう。
独学で彫り師になれますか?
法律上はなれますが、衛生管理を身につけにくいのが難点です。厚労省の補助金による研究班のガイドライン(原案)が挙げる設備や廃棄物の処理を、一人でそろえるのは簡単ではありません。人の肌に彫る前に、見習いやスクールで衛生管理を教わりましょう。
彫り師に向いている人は?
絵を描くことに真剣に取り組める人、人と接するのが好きな人、助言を素直に受け入れて技術を磨き続けられる人です。どれも、見習いを募集するスタジオが条件として挙げています。
【まとめ】彫り師(タトゥーアーティスト)になるには
彫り師になるのに資格や免許は要りません。そのぶん、技術と衛生管理を自分で身につける必要があります。主な道はスタジオの見習い(弟子入り)とタトゥースクールで、どちらを選ぶにしても、まず絵を描き続けることが出発点です。
働きたい地域のスタジオや、目指したいスタイルの彫り師の作品を見ることから始めてみてください。
※2026年10月時点の公開情報をもとにしています。
























